ENVIRONMENTAL REPORT - Music for Re-Tem Mito Factory | ENVIRONMENTAL REPORT - Music for Re-Tem Mito Factory |

Music for Re-Tem Mito Factory ENVIRONMENTAL REPORT Music, 2004

今回、株式会社リーテムの環境コミュニケーションの一環として、2004年春から夏にかけて、3人のアーティストが、水戸にあるリサイクル工場を見学することになった。廃棄物を運び、粉砕し、分別するリサイクルのプロセスを実際に知り、そしてそこで発生する様々な音を録音し、それを用いた楽曲を制作するためである。アーティストは、見学後約1ヶ月間の制作の過程で、音に向かい合い、環境について、リサイクルについて思考を巡らした。本作は、そのような過程を経て制作された、アーティストからの、音による「環境報告書」である。
聴き方はあなたに委ねられている。自宅でBGMとしてかけていてもいいし、ヘッドフォンで集中して聴くこともできるだろう。ドライブの最中にかけてもいいし、クラブで大音量で流してもいい。様々なシチュエーションで本作を聴いて頂ければ、あなたの耳は少しずつ開かれていくことになるかもしれない。
身の周りの様々な音がこれまでとは異なる形で聞こえ出す一瞬を生み出すことに繋がれば、本作の目標は達成される。そして、環境について、リサイクルについて、多様な角度から考えてみるきっかけにもなれば、と思う。
(SETENV)

CDアルバム(全7曲/収録時間:48分04秒)
アーティスト:Nao Tokui[徳井直生]、tamrax、anagma [古舘健]
コンセプト・デザイン・プロダクションマネジメント:SETENV
プロデュース:株式会社リーテム


Nao Tokui[徳井直生]

廃棄物がリサイクル工場の中で新たな生を受ける過程を表現するために、工場内で録音した音素材を用いて3つの曲を構成した。
無作為な金属音から美しいハーモニーや心躍るリズムがかすかに姿をあらわす瞬間、ノイズと楽音の区別、音楽の定義などは実際的な意味を持たない。
廃棄物と資源を分け隔てる区別も同様に曖昧になりうる。

騒音として忌避されがちな工場の音は、私たちの生活のために製造され、生活の中で消費されて捨てられた人工物の存在に重ねられる。しかし、人間の排出物には人間自身の力によって再び意味を与えられることを忘れてはいけない。 私たちの社会の今この瞬間の営みの痕跡に再び価値を与える場所。
リサイクル工場をそのように捉えてみたい。(N.T.)

Nao Tokui (op.disc / PROGRESSIVE FOrM)
1999年にDJ/音楽制作をスタート。複数のヨーロッパのテクノレーベルからのリリース後、 2003年6月にファーストアルバム"Mind The Gap" を、日本のエレクトロニック・ミュージックを代表するレーベルPROGRESSIVE FOrMから発表。2011年リリースの!K7のDJ Kicksシリーズに当時の楽曲用いられていることからも分かるように、先進的な音楽性には定評がある。ソフトウェア開発者としても知られており、音と映像表現を組み合わせた作品をiPhoneアプリとして発表している。
www.sonasphere.com

1.Subtle Tone

廃棄物がリサイクルされ、再利用のための処理がなされていく様をイメージした。中盤以降では、実際の大型機械の動作音を聞くことができる。極端に短いディレイをかけた上で微妙に音程を変化させることで、躍動感を出すことができた。

2.Here to There

豊かな音像的な広がりを持った工場内の振動。視点はやがて外の世界へと移動し、耳慣れた音が見えてくる。人工物がたどる循環サイクルの中で、点と点をつなぐリンクとしての工場のあり方を示した。

3.Resources We Have

細かく粉砕された部品がベルトコンベアーを運ばれる音から、徐々にはっきりとしたリズム構造が生まれてくる。シンセサイザによる人工的な音色を多用する一方、リズムには無作為な揺らぎを与えることで、完成と未完成の間の微妙なテンションを狙った。

Tamrax

工場で見学させて頂いた廃棄物を解体して素材を抽出する作業は、曲から特定の楽器の音のみを取り出す処理に似ていると思った。
ジョン・ケージは、窓から飛び込んできた工事の音について、「これも音楽である」と言ったとどこかで読んだが、それはシニカルな反転であり、工事の音は音楽である以前にまずは騒音である。
たしかに「廃棄物は資源である」が、実際に見た廃棄物から資源を抽出する作業は非常に地道で大変であると思った。(T.)

Tamrax
1978年生まれ。2000年頃より音楽制作を始める。鳥取県在住。

4. untitled.74

ピアノの鍵盤の上に乗っているような音楽的な音と、そうではない音(これは工場内の音を加工したもの)を混ぜ合わせることを考えて曲を制作した。形をとどめた金属の音が使いたかった。

5. untitled.37

この曲も音楽的な音とそうでない音の二つを使うことを考えた。
輪郭ははっきりとしていながらとりとめのないものたちが、浮かんでは消えていく、夢のようなイメージ。
聴いた後で思い返してみてもあまり覚えていないような「環境音楽」になっていたら嬉しい。

anagma[古舘健]

リサイクル工場内での音を聞き、そして実際に見学させて頂き、僕が思ったのはもうそれはそれだけですごく美しいということであって、それは回転する機械のその周期から生まれる曖昧なハーモニーであるとか、その大音量の中にかすかに聞こえる小さな金属片のカラカラと鳴る音であるとか。
そういう音の儚さ、その音の拡散していく様をイメージすること。そしてそこで行われていることは直接的には粉砕という行動なのだけれども、それは紛れもなくリサイクルであって。僕はそれにうまく手を加えることができずにいた。(K.F.)

古舘健 | FURUDATE Ken
アーティスト/プログラマー

1981年生。2002年岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。
2000年ころよりanagma名義でのライブパフォーマンス、およびvokoi kaznovskiとのビジュアルユニット710.beppo(2001~)などとして活動。〈metamorphose〉や〈Sonar Sound Tokyo〉、〈Taico Club〉など国内の大型フェスティバルにてVJパフォーマンスを行う。
2002年よりサウンド・アート・プロジェクトThe SINE WAVE ORCHESTRA を主宰。〈横浜トリエンナーレ2005〉〈アートと音楽〉(東京都現代美術館, 2012)を始め国内外様々な展覧会にて作品を発表。
2006年より京都を拠点とし、映像、サウンド、インタラクティブのプログラマーとして、自身の制作の他に、他アーティストのクリエーションに参加する。主なプロジェクトとしては、高谷史郎氏演出による舞台作品『CHROMA』『明るい部屋』をはじめ、インスタレーションを含めた2006年以降のほぼ全作品。京都をベースとしたパフォーミングアーツカンパニーdotsでは『vibes』(2007)以降『ALTER』(2013) 。インド、バンガロールを拠点に活動するコンテンポラリーダンスグループATTAKKALARI『AadhaaraChakra - A Dancelogue』(2012~)。愛知トリエンナーレ2013にて劇場初演される藤本隆行氏、白井剛氏演出による『NODE/砂漠の老人』など。今西玲子氏のDuo にて〈Sonar Sound Tokyo 2011〉にてライブ・パフォーマンス。
京都造形芸術大学、京都精華大学、非常勤講師。
http://ekran.jp/anagma

6. gb(untitled.1)

リサイクル工場の中で、モノは粉砕され、分類され、それぞれの場所へと循環されていくわけだけれども、そこにはそのモノの記憶が音として満ち溢れ、だけれど、それは特別に感情的なものではなくただ単に溢れているということだけで、実際のところはバラバラになっているだけなのだけれど。

7. sp(untitled.2)

そして、ふと、良く透き通ったガラス越しに外を見ると、そこにはゆっくりと動く大きな機械があり、ガラスに遮られ音は聞こえない。 きしみも無く、滑らかに上下するその動きは、すごく色っぽいと僕は思う。